ニーノ・ロータとオペラ

 ニーノ・ロータの名前を知らなくても、その音楽は誰もが一度は耳にしたことがある。ゴッド・ファーザーをはじめとしたフェデリコ・フェリーニ監督作品や「太陽がいっぱい」などの印象的な映画音楽は、人の心を掴んで離さない。フィギュアスケートの高橋大輔がラ・ストラーダ「道」を取り上げたことも記憶に新しい。

 ロータ本人は「本業はあくまでクラシックの作曲であり、映画音楽は趣味にすぎない」と語っていた。

 実際、彼はオペラにも多くの素晴らしい作品を遺している。今回は、映画音楽とともに、ロータがラジオ放送のために書いたラジオ・オペラの名作などを一挙に3作品お届けする。


オペラ《内気な二人》

 中庭を囲んだ建物では日常生活が始まっていた。この物語の語り手である靴職人は定位置に陣取り、使用人のルチアマリアリーザヴィットーリオは鼻歌を歌ったり、文句をいったり…朝のあわただしい光景が繰り広げられていた。

 

 そこに、内気な青年ライモンドがやってきた。ライモンドは、建物の2階のお屋敷に住む内気なピアニスト、マリウッチャに1年以上恋をしており、何とか知り合うきっかけを得ようと、建物の1階の下宿屋に、引っ越してきたのだ。ピアノの音のせいで、何年も借り手がなかったマリウッチャの真下の部屋を借りたいというライモンドに驚く下宿屋の女主人グイドッティ。しかし女主人にマリウッチャが気になるのか聞かれても、ライモンドは顔を赤らめることしかできない。

 

 マリウッチャもライモンドにこの1年恋をしていた。ライモンドが引っ越してきたことを知ったマリウッチャは、勇気を出して窓から顔を出す。ライモンドも窓から顔を出し、二人がついに挨拶をかわそうとしたまさにその時、ライモンドの頭上に鎧戸が落ちてきて、彼は気を失ってしまう。

 

 同じ建物に住むシニズガッリ医師が呼ばれ、ライモンドの治療にあたる。うわごとでマリウッチャへの愛を情熱的に語るライモンド、しかし、そこにいたのは女主人のグイドッティである。

 恋する人が死んだかもしれないと思ったマリウッチャも気を失ってしまう。娘の様子に慌てたマリウッチャの母に呼ばれて彼女のもとに急ぐシニズガッリ医師。実は彼はマリウッチャのことを何年も想い続けて来たのだ。錯乱して愛を語るマリウッチャの横にいるのはシニズガッリ医師である。

 

 さて、内気な二人はこれからどうなるのだろうか…


オペラ《自動車運転教習所》

 ベルトルテ自動車運転教習所で「彼女」が教習を受け始めた。まったく運転に向いていなさそうで、エンジンをかけてもすぐにエンストを起こしてしまう。彼女を教える「彼」は、(イタリアから見たらとても田舎の)チューリッヒ工科大学でロマンとは何か学んだと自慢するイタリア男だ。

  

 「いつもお祭り騒ぎよ」と叫ぶ彼女に何とか運転を教えようと躍起になる彼。しかしどうも彼女の心はここにあらずだ。 なぜ彼女は自動車教習所にやってきたのだろうか?

 

イタリアの運転教習は最初から路上訓練で危険と隣り合わせだ。こんな調子で運転はできるようになるのだろうか…


オペラ《神経症患者の夜》

 ミラノの見本市の夜は嵐だった。退役軍人で昔は司令官だった男がとあるホテルの部屋に案内されてくるが、案内役のフロント係は「静かに静かに」と言うばかり。

 

 実は、そのホテルには狂った神経症患者が宿泊していて、少しの物音も聞こえないように3部屋を続きで借り、真ん中の部屋で寝ようとしているという。フロント係は本当は空室にしておかなくてはいけない神経症患者の隣の部屋を司令官に貸したのである。今夜は満室だと重々しく言うフロント係。もう片方の部屋も貸してしまったのだ。

 

 朝6時にモーニングコーヒーを注文してベッドに入った神経症患者だが、司令官が脱いだ1方の靴の落ちた音で起きてしまった。彼はもう片方の靴がいつ脱がれるかが気になって眠れなくなり、従業員を呼びつけ大騒ぎ。しかし隣の部屋で無事もう片方の靴を確認し、安心して再び眠ろうとする。

 

 本当は神経症患者がお金を払っていて、空室になっているはずのもう片方の部屋には訳ありの彼女のカップルが入室して愛を語っている。次第に高まる声は神経症患者の耳にも届き始めた。さて、神経症患者は無事に眠ることができるのだろうか…